人事の横のつながりで共創する未来 人事支援研究機関「Hcross」が目指す変革
人材の確保や育成だけでなく、多様化する働き方への対応や人的資本経営など、人事が直面する課題は複雑化の一途をたどっています。HISが運営する人事領域の研究機関「Hcross」(エイチクロス)では、日々課題と向き合う人事担当者や経営層に向けて、実践的な知見の共有と課題解決に取り組み、企業間の交流を促す総合支援プラットフォームを展開しています。人事が企業の持続的な成長を牽引する戦略的パートナーとしての役割が求められる今、人事の在り方や考え方について、同機関を立ち上げたシニアフェローの藤野匡生さんにお話を伺いました。
企業の人事を支援する研究機関「Hcross」について教えてください。
Hcrossは『働く人に輝きを』をミッションに掲げ、人事の皆さんのイノベーションをサポートするための支援研究機関です。どんな組織にも必ず人事は存在しますが、私たちは人事担当の皆さんが抱える多くの課題や悩みの解決を支援することを目的としています。現在、1,200社以上、約2,000名の人事担当者や経営層の方々にご参加いただいています。業種や規模を問わず、多様な企業が集まっているのが特徴です。

私たちは3つの活動領域を中心に展開しています。1つ目は、各社で成果を上げている取り組みを参画企業に紹介する「知見の共有」です。会社の規模は違えど課題は割と共通しています。会社をより良くしていくための知恵になればと思い事例共有を行っています。2つ目は、人事担当者同士で繋がりを持てる場を提供する「コミュニティの運営」です。人事交流会や勉強会、カンファレンスを実施し、名刺交換などを通じて何かあった時に人事同士で情報交換ができるような場を作っています。人事に特化した交流の場というのはあまりなく、Hcrossのように、企業が営利目的ではないプラットフォームを提供するケースは珍しいと思います。そして3つ目が、人事サポートをするベンダーを紹介する「ソリューションのマッチング」です。例えば、評判の高い研修会社や、優れたタレントマネジメントシステム、人事制度コンサルなど、人事をサポートする企業と、それを求めている企業を結びつける取り組みを行っています。
Hcrossに所属する研究員は30代〜60代まで年齢層が幅広く、非常に面白いメンバーが揃っています。長年人事畑を歩んできた方や営業職だった方など過去の職務歴も様々です。年齢も経歴も多種多様なメンバーが集まっています。

HISでこの事業を立ち上げた背景について教えてください。
コロナ禍がきっかけとなって立ち上げました。旅行の需要がなくなってしまった中で、「せっかくの機会だから何か新しいことをやろう」と企画し始めたのが最初です。元々、HISの法人営業部署のお取引先の多くが人事担当者様でした。業務渡航や福利厚生、社員旅行、インセンティブ旅行など、窓口となる方が人事・総務部門でしたので、「旅行以外の価値をご提供し、お世話になっている人事の皆様のパフォーマンス向上に役立つサービスを作ろう」と考えたのが最初の発想です。案件の有無に依存した一過性の関係ではなく、真のBtoBパートナーとなれるよう日常的にお客様と深く繋がれる関係構築を目指し、自分たちで将来を見据えて、小さい取り組みですが、できることから始めました。
人事が直面する課題は無くなることがありません。むしろ増える一方です。AIが普及しても人間と組織の課題は残り続けます。だからこそ、人事への支援は永続的にサービスをご提供できると考えました。
女性活躍推進やミドルシニアのキャリア形成など企業が変革が求められている昨今、実際に企業人事からはどのような悩みが寄せられていますか。
多くの人事担当者様・経営者様が、単なる管理業務にとどまらない長期的な課題に悩まれています。経営者の悩みの8割は「人」に関する課題といわれています。「なぜ決めた事が上手くできないのか」「なぜ新しいことに挑戦してくれないのか」「人材不足なのに採用がうまくいかない」「離職者が多い」といった悩みが常に存在します。時代の変化に合わせて、採用コストの上昇、獲得した人材の定着、エンゲージメントや処遇の向上、そして少子高齢化に伴う若手人材の不足など、課題は山積みです。日本の多くの企業が同じような課題に直面し、頭を悩ませています。
皆が集まって情報共有ができれば、同じ課題に対して他社がどう乗り越えたか、という知恵が得られます。前例踏襲ではなくイノベーションを起こすためには、変革を恐れない人事のあり方が求められています。自社単独で新しい人事施策を実行することはリスクが大きいですが、他社が試行錯誤した施策に一工夫加える、複数社で類似の施策を試してみる、などであれば、リスクを大きく減らすことができます。
「262の法則」という考え方があります。組織は「2割の上位層」「6割の中位層」「2割の下位層」で構成されるという経験則で、上位層の2割は意欲的に働く優秀な人材で自らも成長する、中位層の6割は平均的で安定志向、下位層の2割はモチベーションに課題がある、という考え方です。人事は下位層へのアプローチや緊急のトラブル対応に追われがちです。本来手をかけるべきは、6割を占める中位層で、彼らは本来もっとパフォーマンスを発揮できるはずですが、安心や安定を優先するあまり不安を感じると動けなくなってしまうのです。この多数の層が十分に活躍できるよう、人事が向き合い働きかけることで人事の課題の大半は解決するはずなのです。私たちは、人事がそこに力を注げるようなサポートを行っていきたいと考えています。

HISグループのパーパス『「心躍る」を解き放つ』は本当に良くできていて、どの会社でも使えるのではないかと思います。先日開催したHcrossのイベントで某企業の方とお話しした際、「ビジネスパーソンにとって最も大切なものは何か」という話題になり、「情熱やワクワク感だ」という結論になりました。評価制度なども大切ですが、それ以上に「皆でワクワクするものを作り出したい」という思いが重要です。人事が暗い顔をして管理ばかりしていては会社が良くなるはずがありません。人事はもっと明るく、大きく構えるべきです。もっとワクワクして、全員が活き活きと働く環境を作ることこそが、本当の人事の役割だと思っています。HISのパーパスである『心躍る』という概念を自社だけに閉じ込めず、「皆で心躍らせましょう」という姿勢で、様々な企業と一緒に取り組んでいきたいですね。
参加している企業からはどのような反響がありましたか。人事同士で横のつながりを活発にしたことによる、コラボレーションなどありましたらお伺いします。
会員同士の繋がりができたこと自体が良かったというお声をいただいています。さらに一歩進んで、「こういった事例について知りたいのですが、実践している会社を紹介してもらえないか」といった問い合わせや、「A社の取り組みについて話を聞きたいけれど接点がないため、紹介してほしい」という依頼が頻繁に寄せられています。ハブとしての役割を果たせていると感じています。また、Hcrossを介さず会員様同士でのやり取りも自然発生的に生まれており、人事情報の交流や相互利用が進んでいます。他社同士の会社見学や交流コラボレーションや、企業間での人材出向などの取り組みも始まっております。元々は繋がりのなかった企業同士が人材交流することで非常に大きな効果が生まれていると感じています。
藤野さんが思い描くHcrossの今後のビジョンをお聞かせください。また、会社や社会はどう変わっていくべきだと思いますか。
無理に働かせるのではなく、一人ひとりが輝ける環境を作ることが大切です。旅行事業では幅広いお客様に感動を提供していますが、法人事業であるHcrossにおいては「働く人」にフォーカスしています。人口が減少していく中でも、皆が楽しく輝いて働ける環境が整っていけば良いと考えています。優秀な人材が入社しても、その能力を充分に発揮できる場所がない場合があります。そうした人材を、人手が不足している他の企業で活かすような流動性があっても良いと考えています。個々の力を発揮できる環境を増やしていきたいですね。
自分の好きなことや得意な分野で活躍できるのが理想です。完璧な企業というのは存在せず、どの企業にも強みと課題があります。それぞれの強みを活かし合いながら、人が輝ける社会を作っていきたいと考えています。

株式会社エイチ・アイ・エス
Hcross シニアフェロー
藤野匡生
大学卒業後、銀行に入行。経営企画部にて合併統合の現場責任などを担う。退行後、投資会社にて新規事業の成長を支えると共に、自らスタートアップ企業の代表も務めた。2019年にHIS入社後、法人営業の業務の傍ら有志を集い、2022年6月、人事に特化したHR Lab.(2024年より組織名を変更し、現在の「Hcross」に)を立ち上げる。2026年1月より現職。
※記事の内容はインタビュー当時のものです。