「旅を楽しむことが環境貢献」をスタンダードに。HISオーストラリア法人が描く「サステナブルな旅」の未来
オーストラリアは、国立公園での厳格な自然保護や州ごとのプラスチック製品禁止法、再生可能エネルギーの普及など、世界をリードする「環境先進国」です。その地で旅行業を営むHISオーストラリア法人もまた、独自のサステナビリティ活動を加速させています。ケアンズ周辺8箇所へのウォーターサーバー設置やコアラ基金への支援など、その活動は多岐にわたります。お客様に楽しんでいただく観光の舞台裏で、何を想い、どのような困難を乗り越えてきたのか。HISオーストラリア法人 西川頼仁さんに話を聞きました。
環境先進国オーストラリアにおいて、HISが「自社でウォーターサーバー網を作る」という決断に至った背景についてお聞かせください
オーストラリアは世界でも有数の環境先進国です。プラスチック削減や自然保護は社会全体の共通認識となっていますが、一方で旅行者が驚かれるのは「水の価格」ではないでしょうか。日本では1本100円程度のペットボトル水が、こちらでは500円ほどすることも珍しくありません。
熱帯気候のケアンズにおいて、こまめな水分補給は体調管理の要です。しかし、喉が渇くたびに高価な水を購入することは、お客様にとって経済的な負担になるだけでなく、その都度プラスチックごみを増やしてしまうというジレンマを生んでいました。
「お客様の負担を減らし、ケアンズの美しい自然も守りたい」 そんな想いから、HISではお客様へ無料でお水を提供できる環境を整えようと、「ウォーターサーバー設置プロジェクト」を始動しました。経済的にも環境的にも優しい仕組みをつくること。それが、私たちのサービスの原点です。
現在、このプロジェクトは広がりを見せており、ケアンズ市内の4箇所をはじめ、パームコーブに2箇所、キュランダに3箇所、さらにゴールドコーストやシドニーにも各2箇所ずつ設置を拡大しています。 ツアーデスクやラウンジ、ギフトショップといった、旅行者の皆さまが立ち寄りやすい便利なスポットを厳選して選定しました。


ウォーターサーバーを設置するにあたり、苦慮した点をお聞かせください
設置にあたっては、電源の確保や衛生管理を徹底するため、専門業者と何度も協議を重ねて場所を厳選しました。中には「お客様に見えづらいのでは?」という課題に直面することもありましたが、現場での試行錯誤を繰り返し、一つひとつ課題をクリアにしながら設置を進めてきました。
また、このプロジェクトは私たちだけの力で成し遂げたものではありません。長年共に観光を盛り上げてきた現地のサプライヤー各社の協力が不可欠でした。 「ウォーターサーバーを置く」という事務的な契約を超えて、これまで築いてきた信頼関係があったからこそ、多くのスポットを確保することができたのです。地元の仲間たちと手を取り合い、一歩ずつ作り上げた大切な仕組みです。
特に苦慮したのは、旅行者の皆さまがバランスよく立ち寄れる場所の選定でした。例えばキュランダ村では、理想的な場所を探して一軒のアクセサリーショップに飛び込みで交渉に伺ったこともあります。私たちの目指すサステナビリティの理念を懸命に伝えたところ、店主の方はその想いに共感し、設置を快諾してくださいました。
現在、そのショップでは、お客様が給水に立ち寄るついでにお買い物も楽しまれるなど、お互いにとって良い関係が築かれています。地域全体で支え合うこの輪が、お客様の旅をより豊かに彩っていると実感しています。

オリジナルで「aQuAsマイボトル」を制作しているとのことですが、素材やデザインのこだわりや、お客様の体験価値についてお聞かせください
HISのオーストラリアツアーでは、旅のパートナーとして2種類のブランドのマイボトルを特典に採用しています。その一つ「MiiR(ミアー)」のボトルには、すべての底面にトラッキングナンバーが記載されています。QRコード※を読み込むと、ボトルの素材だけでなく、購入費用の一部がどのような環境・社会支援プロジェクトに寄付されるかを、お客様自身で確認できる仕組みです。デザインにもこだわり、旅の記念として大切に持ち帰っていただけるよう、オーストラリアを象徴する動物たちを描きました。ロットネスト島に生息する愛らしい「クオッカ」と、不動の人気を誇る「コアラ」の2種類を展開しています。
また、私たちはあえて「自分で水を汲む」というアクションを大切にしています。 ペットボトルを買う手軽さに比べれば、マイボトルに水を補充することは、少しの手間や不便さを伴うかもしれません。しかし、その一手間を通じて「自らアクションを選択する」という意識を持っていただくことが、環境について考える大切なきっかけになると信じています。
実際にお客様からも、「ペットボトルを買わなくなった」「日常の環境意識が変わるきっかけになった」といった嬉しいお声をいただいています。
なお、マイボトルが特典に含まれない商品をご利用の方や、個人旅行でケアンズ・ゴールドコーストを訪れる皆さまにも、現地のツアーラウンジにてお買い求めいただけます。

ウォーターサーバー設置プロジェクトを始めてからのペットボトルの削減効果と、今後の拡大計画について教えてください
この取り組みによる成果も、着実に現れ始めています。 現在、年間でお渡ししているマイボトルは約4,000本。お客様の平均滞在日数を3〜4日とし、「1日1本のペットボトル購入をマイボトルに切り替えた」と仮定すると、年間で約12,000〜16,000本ものプラスチックごみ削減に繋がっている計算になります。お客様お一人おひとりが、受け取ったボトルを大切に使ってくださることで生まれる、非常に大きなインパクトです。
ウォーターサーバー設置プロジェクトは、今も広がり続けています。 ケアンズから始まったこの試みは、ゴールドコースト、そして数ヶ月前からはシドニーでの展開もスタートしました。
現在はメルボルンやパースなど、HISオーストラリアの拠点がある各都市への設置に向けて交渉を進めているところです。
私たちの視線は、さらにその先を見据えています。将来的にはニュージーランドやフィジーなど、オセアニア地域全土へこの仕組みを広げていくこと。それが、私たちが描いている未来の形です。
昨年よりはじめている「オーストラリアコアラ基金」の選定理由と、寄付金の使途についてお聞かせください
私たちがパートナーに「オーストラリアコアラ基金」を選んだ最大の理由は、コロナ禍のオンラインツアーを通じて培った深い「ご縁」があったからです。しかし、その背景には、オーストラリアの観光が直面している切実な課題もありました。
ケアンズやゴールドコーストを訪れる多くのお客様にとって、「コアラを抱っこして記念写真を撮る」という体験は、一生の思い出に残る旅のハイライトです。しかし現在、コアラは絶滅危惧種に指定され、その個体数は深刻な状況にあります。環境保護の観点から規制も強まっており、実際に現地では「コアラ抱っこ」の体験を終了する動物園が着実に増えています。
このままでは、近い将来、コアラを抱きその温もりを感じるという特別な体験自体が、過去のものになってしまうかもしれません。
「日本から来られるお客様の笑顔を守りたい。そして、その笑顔をくれるコアラたちの未来も守りたい」
そう考えたとき、真っ先に頭に浮かんだのが、コロナ禍のオンラインツアーで共にコアラの魅力を発信してくれた「オーストラリアコアラ基金」の皆さまでした。画面越しの交流で終わらせるのではなく、リアルな旅が戻ってきた今だからこそ、持続的にコアラを守る仕組みを一緒に作りたい。そんな強い想いから改めてお声掛けをし、このパートナーシップが実現しました。
皆さまからお預かりした寄付金は、主にコアラの生息地である「森」を守る活動に役立てられます。さらに、コアラの健康状態や環境の変化を調査する科学的研究機関の資金としても充てられ、専門的な視点からコアラの生態を守るために活用されています。
コアラとの触れ合いを通じて得られる感動を、次の世代にも届けていく。それが、志を共にしてきた「オーストラリアコアラ基金」と共に歩む私たちの使命だと考えています。
HISオーストラリア法人として、森林破壊や気候変動などの大きな問題に対し、旅を通じて旅行者にどのような意識を持ってほしいと考えていますか
HISオーストラリア法人では、ウォーターサーバーやコアラ基金のほか、世界遺産グレートバリアリーフを守るため、「サンゴに優しい日焼け止め」をツアー特典として提供しています。海水温の上昇による白化現象やサンゴ礁の縮小が進む中、専門業者と提携し、海への負担を最小限に抑えたHISオリジナルの日焼け止めを形にしました。
私たちが目指しているのは、海、森、そして動物を包括的に守る未来です。
本来、旅とは楽しむべきものだと思います。しかし、知らず知らずのうちに環境に負荷をかけてしまう側面もあります。私たちは、お客様に過度な負担やストイックさを求めるのではなく、「HISでオーストラリアを旅すれば、気づかないうちにコアラを守り、サンゴを守り、プラスチック削減に貢献している」という状態を作りたい。特別な意識を持たずとも、旅を楽しむことがそのまま自然環境の保全に繋がっている、そんな「サステナブルな旅」をスタンダードにしたいと考えています。
一人の旅行者の「楽しい」という気持ちが、オセアニアの豊かな自然を未来へ繋ぐ力になる。そんな仕組みを、これからもこの地域全土で拡大し、進化させていきたいと考えています。

※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

H.I.S. Australia Pty Ltd(HISオーストラリア法人)
Senior Manager
西川 頼仁
2012年HISオーストラリア法人に入社。オセアニア地域本部にて主にインバウンド・個人旅行の業務全般を担当。2025年12月よりケアンズ支店長を兼任し、現在に至る。
※記事の内容はインタビュー当時のものです。