
すべてのお客様が気軽に楽しめる旅を ユニバーサルツーリズムデスク【前編】
ユニバーサルツーリズムとは高齢や病気、障害などの有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行のことです。HISでは専門デスクを設け、"だれもが、いつでも、自由に" 旅行を楽しんでいただけるよう旅の手配をサポートしています。今年で23年目を迎えるユニバーサルツーリズムデスクについて、前編では車椅子を利用されている方を対象とした「たびのわ」を、後編では聴覚障害をお持ちの方を対象とした「しゅわ旅」を特集します。今回は、「たびのわ」について、ユニバーサルツーリズムデスク所長の高頭さんに話を聞きました。
ユニバーサルツーリズムデスクの成り立ちについて教えてください
2002年に、加齢・病気・怪我・後遺障害などで旅に不安を感じている方を対象とした専門デスクを立ち上げました。日本では2年前に「交通バリアフリー法」が施行され、移動のバリアフリー化が推進されていた時期です。これまでは、全国の各営業所がお客様からお問い合わせを受け、それぞれのスタッフが障害の状況や困難な点などを確認し手配をしておりましたが、知識が蓄積されていない状況でした。お客様にも安心してご利用いただけるよう専門デスクとして知識や情報を集約することが重要だと考え、専門デスクの設立に至りました。
当初は、既存のパッケージツアーの予約受付窓口として営業していましたが、お客様から「あらかじめ障害がある人を想定したツアーを企画して欲しい」というお問合せを多くいただくようになり、現在では、専用ツアーとして、主に車椅子を利用されている方を対象とした添乗員同行のツアー「たびのわ」と聴覚障害をお持ちの方を対象とした「しゅわ旅」を造成しております。その他、航空券と宿泊施設などの個別手配やオーダーメイド旅行なども請け負っています。ご予約者の構成比としては、「たびのわ」が2割、「しゅわ旅」が2割、個別手配などが6割程で、介助人を必要とする方からゆったりとした行程で観光したい方まで、様々な方にユニバーサルツーリズムデスクをご利用いただいております。また、全国の営業所とも連携し、社員向けに研修やアドバイスをさせていただくこともあります。
「たびのわ」についてどのようなツアーか教えてください
「たびのわ」は主に車椅子を利用されている方を対象としている添乗員同行のツアーです。1回のツアーは10名前後で催行しており、半数は車椅子の方、もう半数がその介助者の方です。参加者の約8割が65歳以上とご高齢の方が多く、旅行形態としてはご夫婦でのご参加や、最近では70〜80歳代のお母様とお嬢様の母娘旅も増えてきました。日常生活では杖を使い歩行していますが、移動の多い旅行は車椅子を使用したい、という方もいらっしゃいます。また、お一人参加の方もいらっしゃいます。その場合、ご自身で車椅子を自走できる、電動の車椅子を使用されている、など介助者がなくとも移動やお食事、お手洗い、入浴など身の回りのことがご自身で対応が可能か確認させていただいております。
コロナ以降、航空会社の車椅子受け入れについて、提出書類や確認事項が増え、情報のアップデートも以前より頻繁になりました。専門デスクの知識をもって、安心してご出発いただけるよう、いつまでに何をしていただく必要があるのか、お客様と一緒に準備を進めています。
ハワイや奄美大島などは毎年ツアーの募集を行っておりますが、他の地域は今年募集したら翌年は別の地域を取り扱うことが多いです。毎年同じ地域よりも別の旅行先に行きたいというご要望が多いためです。「たびのわ」は募集人数に達して初めて催行ができるため、年によって本数は変わりますが、年間で海外・国内それぞれ5〜6旅程の催行をしています。お客様から「次はここに行きたい」というお声をいただくことも多く、何月だったら皆さんのご都合が合いそうか、お客様にご相談させていただくこともあります。リピーターのお客様も多いのですが、海外旅行ではHISを初めて利用された方が殆どだった、という時もあります。マチュピチュ遺跡やウユニ塩湖、メテオラ修道院など、車椅子での個人旅行だと難しいと感じてしまいそうな地域も、HISのツアーなら行けるかも、と思っていただけたのかなと感じています。

スペインのサグラダファミリア大聖堂にて
旅行の行程は、最大の希望のルートを組んでみてから、移動に伴う所要時間などから実現可能かどうかを精査していきます。平行して、HISの現地支店や送迎会社、宿泊施設など受け入れいただく側と調整し、複数の車椅子移動が可能であるか、それぞれの所要時間は適切か確認し、無理のないルートに組み直します。車椅子はリフト付きの車両を使うことが多いのですが、車椅子のお客様が5名いらっしゃる場合ですと、1グループの乗り降りで20〜30分程かかります。お客様を急かすことにならぬよう、時間に余裕を持たせた行程にすることは必須です。
高頭さんがユニバーサルツーリズムデスクに配属になるまでの経歴を教えてください
元々、大学で福祉の勉強をしていました。学生時代に初めてカンボジアに海外旅行をし、帰国後にアンコールワットの写真を車椅子の友人に見せた際、「俺はこんなところに行くのは難しいよね」と言われ、この友人を連れていける旅行を作りたい、と思ったことが旅行会社に就職しようと決めたきっかけです。国内旅行は日本語で調べることもできるし、だったら海外旅行が強いHISにしよう、と。京都の大学でしたので関西で就職活動の選考を受け、無事採用となりましたが、ユニバーサルツーリズムデスクは関東にしかありませんでした。どうすれば地域を超えた異動ができるのか人事や上司に相談したところ、社内公募制度を使うことを助言いただき、入社5年目の秋にユニバーサルツーリズムデスクが公募を行ったタイミングで応募しました。私は関西からの応募でしたので、書類審査の後はオンラインでの面談予定でしたが、熱意を直接伝えたく東京の本社まで乗り込みました。無事合格し、年が明けた入社6年目の春に希望していたユニバーサルツーリズムデスクに異動となりました。
社内公募制度---人材を募集する部署が異動希望者を募り、社員が自ら応募できる制度。
お客様との「心躍る」エピソードなどありましたら教えてください
2つありまして、1つ目は、ユニバーサルツーリズムデスクに異動したての頃、デスクのリピーターだったお客様より"経験がないこと"にお言葉を頂戴しました。経験値やスキルがない分、ご旅行まで自分ができることを精いっぱいさせていただき、最後に「高頭さんでよかった」と言っていただけたことは鮮明に覚えています。そのお客様とは、その後も色んな旅行をご一緒させていただき、現在もご利用いただいております。2つ目は、初めてこのデスクをご利用されたお客様との思い出です。心配事が多かったのでしょう。何度もご質問をいただき、出発2週間前からは毎日お電話をいただきました。ご予約いただいたツアーは私が添乗ではなかったのですが、ご出発当日、空港へお見送りに行きました。その時、「色々不安だったけれど安心して出発できます。楽しんで来るわね!」とおっしゃってくださった時の笑顔が忘れられません。この仕事をやっていて良かったなと思いました。自分の心が躍っていたと感じます。
コロナが数年間続いたことで、お客様も同様に年齢を重ね、「数年間外出を控えて体力が落ちてしまった」とおっしゃるお客様がいらっしゃる一方で、「体力があるうちに旅行を楽しみたい」と前向きな気持ちで旅に出るお客様もいらっしゃいました。様々な理由で諦めていたお客様のご希望の旅行を叶えることができるこの仕事に、誇りとやりがいを持って働くことができています。

高頭さんのこれからの目標や抱負を教えてください
ユニバーサルツーリズムデスクは現在関東にしかなく、近郊にお住まいのお客様が多いのですが、全国各地からもご予約をいただいております。将来的には関東だけでなく、関西、中部、九州、など全国各地に拠点を拡大したいと思います。お住まいの地域の空港から出発できるツアーがあれば、旅行に一歩踏み出していただけるきっかけになるかもしれません。 高齢化と共に旅行可能寿命が延びることで、ユニバーサルツーリズムの需要は増加すると思います。ユニバーサルツーリズムを推進するために重要なことは、情報をいかに可視化し、お客様がアクセスしやすくできるか、だと思います。誰でも気軽に旅を楽しんでいただけるよう、旅のハードルを下げることが私たちの役割だと思っています。

後編では、高頭さんからバトンを受け、聴覚障害をお持ちの方を対象とした「しゅわ旅」について、ユニバーサルツーリズムデスクで働く片桐さんに話を聞きます。
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高頭 大志
ユニバーサルツーリズムデスク
所長2009年入社。コンサルタント、関西営業本部でのマーケティング業務を経て、2014年よりユニバーサルツーリズムデスクで業務。2024年より所長に。商品造成、販売、手配、添乗まで一気通貫で担う。
※記事の内容はインタビュー当時のものです。
障害、車椅子の表記について
HISでは、公的文章や条約と表記を揃え、固有名詞を除き、原則として漢字での表記に順次整えております。