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持続可能な航空燃料(SAF)のCO2削減価値を活用したプログラムで、変わらず旅が楽しめる未来を築く

持続可能な航空燃料(SAF)のCO2削減価値を活用したプログラムで、変わらず旅が楽しめる未来を築く

2025/11/27

インタビュー
地域環境の保全 持続可能な社会の実現

HISは、丸紅株式会社が販売する持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel 以下、SAF)の「CO2削減価値」を活用するプログラムを活用したツアーを2025年6月より販売開始しています。旅行業界のCO2排出量削減に貢献し、お客様が旅行を楽しみながら地球環境保護に貢献できる選択肢を提供する、このプログラムの取り組みについて伺いました。

丸紅株式会社 白石淳平

丸紅株式会社
新エネルギー開発推進部 次世代エナジー事業開発課 課長
白石淳平

メーカー勤務を経て、2009年丸紅入社。天然ガス事業の開発・管理業務等を経験し、2019年より水素・低炭素輸送燃料などの次世代燃料事業に従事。

丸紅株式会社 橋本史人

丸紅株式会社
新エネルギー開発推進部 次世代エナジー事業開発課 マネージャー
橋本史人

2007年丸紅入社。米国駐在や、石油・天然ガスのトレーディング・事業投資を経験し、2021年以降は低炭素燃料に関わる事業開発を担当。2024年より現部署に所属し、SAF関連の新規事業開発に従事。

HIS 福島慶輔

株式会社エイチ・アイ・エス
海外旅行事業部 部長
福島慶輔

1998年入社。欧州・中近東地域の航空仕入業務を経験し、予約発券業務の責任者として着任。その後、ヨーロッパ地域の責任者と共に「impresso」のブランドリーダーを担い、2022年より現職。

HIS 千葉順子

株式会社エイチ・アイ・エス
海外旅行事業部 impresso事業グループ グループリーダー
千葉順子

2001年入社。欧州地域のツアー・航空手配業務を経て、2025年より現職。添乗員同行ツアーブランド「impresso」の企画責任者としてヨーロッパ・中近東・アフリカ・北中南米・オセアニア地域を管轄。

※記事の内容はインタビュー当時のものです。

まずは、SAFとはどのようなものなのか、お伺いできますでしょうか

白石(丸紅):SAFは化石由来ではないものを原料とする航空燃料で、メリットとしては、これまでの化石由来の燃料と比べてCO2排出量の大幅な削減が可能です。また、化学的な性状、安全性は基本的に従来のジェット燃料と変わらず、既存の機体やインフラ設備をそのまま使用できることも特徴です。原料として現在最も多く使われているのは廃食用油で、日本国内でも回収ネットワークの拡大が進められています。世の中にある炭素をリサイクルすることがSAFのベースの考え方です。

SAFは従来の航空燃料と比較して約80%のCO2排出量削減効果があるとされている
SAFは従来の航空燃料と比較して約80%のCO2排出量削減効果があるとされている

白石(丸紅):航空業界におけるCO2排出量は全世界の排出量の約2〜3%を占めており、航空需要の高まりにより、この割合は今後増加すると予測されています。国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)は、2016年に国際航空のCO2排出量を削減する枠組みであるCORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)を採択し、航空会社が2019年の排出量を基準に、以降のCO2排出増加分を削減するという仕組みを段階的に義務化し、最大かつ最も現実的な手段としてSAFの導入を奨励しています。

間接的CO2削減価値を活用するプログラムについて、教えていただけますか

白石(丸紅):SAFの製品そのものの流れ(Scope1)とは切り離し、CO2削減価値(Scope3)を管理・取引する仕組みを使い、丸紅が供給するSAFのCO2削減価値に基づく証書を発行することで、航空機利用企業に「間接的CO2削減価値」を割り当てるものです。

スキーム図
スキーム図

橋本(丸紅):プログラムは、国際的な第三者認証機関である「一般財団法人日本海事協会(ClassNK)」により妥当性認証を受けており、CO2削減価値の計算と証書の発行における透明性、信頼性を確保しています。

丸紅がこのプログラムを開始した背景を教えてください

白石(丸紅):丸紅は、航空燃料の輸入と国内空港への供給を行っています。業界内でCO2排出量の削減が喫緊の課題となる中、2024年よりSAFの日本市場への供給も開始していました。一方で、SAFは高価であることから航空会社一社でそのコストを負担するには限界があり、一つの解決策として、SAFが持つ「価値」を実際に享受する航空機を利用される方々を含め、それぞれが費用を一部負担することでメリットを得る案を考え、当社が扱うSAFの「CO2削減価値」を個別に航空機利用企業に販売するプログラムを作りました。燃料供給者の立場で、航空機利用企業が参加しやすいプログラムにしたいと考えました。

白石(丸紅):利用者だけが、または航空会社だけがコストを負担するという考えは偏ってしまっているな、と考えており、サプライチェーン全体でコストを負担し価値も享受しながらSAFの利用促進に努めていくのが一つの考え方だと思っています。

橋本(丸紅):Scope1とScope3は同じSAFに基づいています。航空会社がSAFを購入、使用するだけでは、Scope3の価値が可視化されないまま埋没してしまうという課題が従来ありました。その価値を可視化して他の方に享受できるようにするというのがこのプログラムの一つのポイントです。

白石(丸紅):丸紅は、パートナーとの協働による課題解決を目指しています。HISさんのような旅行会社と商社はこれまであまり接点はなかったのですが、このプログラムにHISさんが介すことで、丸紅が燃料を供給しているだけでは届かない一般旅客の方々にリーチし、そこで価値が生まれる、価値を新たに享受できる人たちができる、業界の掛け合わせで新たな価値が生まれてくることを目指しています。

HISがこのプログラムを導入するに至った背景を教えてください

福島(HIS):添乗員同行ツアーのブランドである「impresso」が25周年を迎えました。これまで、HISは「価格を下げる」ことで海外旅行の経済的なハードルを下げて多くの人に海外旅行を身近に感じてもらう、そして色々な体験価値を提供する、という点がお客様から求められてきたことだと思います。そこから年数がたち、その役割を担いつつ、もう少し新しい価値を発信していく段階に来ているのではないか、と考えました。ご愛顧いただいた25年の一番の貢献者は観光地であり、そこに共感していただいたお客様です。その方たちがその先の25年も同じような「楽しい海外旅行」でありつづけるために、私たちがどうしていくべきなのか、と考えた時、ここをタームとして持続可能な観光開発に対して、何か一つ具体的な答えを出さないといけないと思ったのが一番のきっかけです。

福島(HIS):HISは、2024年に航空会社が主体でSAFを購入し、サポーターを募るプログラムに参加させていただいておりましたが、自社が能動的に環境価値を考えていきたいと思い、航空会社のプログラムに依存しない形で取り組めるものがないかと考えていました。海外旅行にかかる費用のうち航空運賃が占める割合は高く、環境価値を生み出すためにはその割合が高いところに手を入れてみたい、という思いがありました。海外旅行のリーディングカンパニーとして、環境価値に能動的にかかわっていくためのソリューションを丸紅さんからご提案いただき、導入にいたりました。

6月から発売し4か月ほど経ちましたが、お客様からの反応はいかがでしょうか

千葉(HIS):対象出発日は2025年11月から2026年1月で約500席をご用意していますが、販売4ヶ月で350名以上の方にお申込みいただいています。

福島(HIS):現在2〜3月の出発分を追加させていただくお話をしている最中です。(注1)この時期は学生旅行のシーズンで、近年では親子で旅行する方も多くなっています。いわゆるZ世代と呼ばれる年代の方は環境への感度が高く、彼ら・彼女たちが親世代の人たちも啓蒙してくれるかもしれない。ですので、2〜3月も引き続きプログラムとして進めていきたいと考えています。サステナビリティに特化したツアーとして出すこともできますが、現時点では、まず環境価値に基づいて開発した商品を「知っていただく」ことを優先し、既に実績・人気のあるコースにこのプログラムを搭載しています。ご参加いただいたお客様には、地球環境保全への貢献をより実感を持っていただくために参加証をお渡ししています。

白石(丸紅):当社はB2B のビジネスが多いため、このような取り組みを通じてコンシューマーの声や顔が見えてくるというのは非常に刺激的ですね。こういう風に行動が変わるのではないか、という兆しをお聞きすると、これからの姿についてまた少し違う視点を持つことができます。

このプログラムのポテンシャルをどのように感じていますか

福島(HIS):欧米までとはいかないものの、日本でも環境に対する考えが注目されるようになっています。取り組みを続けることと一過性で終わらせないということ、また、HIS社員の啓蒙も重要だと思っています。ポテンシャルというより、今の欧米のように何年か後には履行しなければいけない義務になっていくのかもしれません。

白石(丸紅):SAFが当たり前になる世界が来れば良いのですが、そこに至るまでに、強制ではなく自発的に参加したくなる雰囲気をつくり、マインドを変えていくことが大事だと思います。

橋本(丸紅):このプログラムを発表させていただき、多方面から問い合わせをいただき、先進的な取り組みとして捉えていただいている。私たちも何かしないといけないよね、という動機付けが多少できているのかなと思います。ムーブメントを起こしていけるシグナルを感じています。

SAFの普及が進むことで、私たちの旅行はどのように変わっていくと予想しますか

福島(HIS):逆に、これが進むことであまり変わらなくて済むのではないかと思っています。オーバーツーリズムの問題もそうですが、何もしなければ環境に対する悪化はいずれ出てきてしまう。もしかしたら、1日あたりの航空便の乗り入れ制限ができるかもしれないし、こういう飛行機は乗り入れ禁止です、という規制が入り、今と同じような旅行はできなくなるかもしれない。SAFの利用を促進することによって、今と同じように、好きな時に好きな場所に行って観光ができる未来を続けるために、何かが変わるよりも何も変えないようにするために、取り組まなければいけないことなのではないかと思っています。

白石(丸紅):世界中で地域ごとにSAFの使用義務化の動きはあり、日本国内でも、具体的な時期と数量が議論されているところです。このまま行くと、そういう方向になっていくと思いますが、義務の負担が航空会社に偏れば、航空代金はますます高くなっていきますし便数の面でも今とは違うようになるかもしれない。現在、SAFは航空燃料全体の1%も使われていませんが、数量を上げようにも、原料である廃食用油が足りなくなるのではないかと言われています。そのために今、世界各国で回収されていない相当数ある廃食用油をさらに集める取り組みも進められています。廃食用油以外にも、生物由来の原料、残渣や廃棄物を燃料転換する技術開発も進められており、丸紅としてもそういう取り組みもしています。

橋本(丸紅):現在回収している原料は、基本的にはB2B で回収しています。一方で、家庭から出ている廃食用油は捨てられているような状況ですので、もしこのツアーで色々気付きを得ていただき、「この廃食用油はスーパーに持っていって回収してもらおう」など動機付けに繋がっていければ、もしかしたら原料のネックの解消にも少しずつ繋がっていき、SAFの普及にも繋がり、またそれがぐるぐると回っていく、みたいな未来がもしかしたら待っているかもしれない。

千葉(HIS):そのうちHISの店舗でも廃食用油を集める未来があるかもしれないですね。

どのような未来を目指したいと考えていますか

白石(丸紅):海外出張で飛行機に乗る機会が多いのですが、仕事でも特別な高揚感があり、旅行であればなおさらです。私たちの子供世代が今後も同じ体験を続けられるよう、SAFの普及に取り組んでいきたいと思っています。SAFの使い方について、我々だけでできることは限られており、HISさんのアイデアをお借りしながら、ひいては航空業界の発展に少しでも繋がればと思っています。

橋本(丸紅):福島さんがおっしゃっていましたが、「今までのことを変わらずにできる未来」というのは非常に重要なことだなと思っています。今年の夏も猛暑が続き、子供が外で遊べなかったり、スポーツができなかったり・・CO2の削減に少しでも貢献し、次の世代が変わらずに、旅行も含めて今までのことを続けていける社会になっていければいいなと思います。 

福島(HIS):自発的に環境に関わっていただくことをお客様1人ひとりに伝えていくことは大事で、ごく普通のこととして捉えていただける未来を作っていかなければいけないですし、そこがゴールでなければ環境保全は成り立たないと思っています。同時に、環境保全を提供していく側もブラッシュアップしていかなければならない。私たちもツアー商品の中に投入していく際、よりお客様が受け入れやすいものや、その環境に対する貢献を実感いただけるものなど工夫をすることで、環境に対して当たり前に貢献いただけるような人を少しでも増やしていくことが目指すべき未来の社会なのではないかと思います。

千葉(HIS):いち企画担当者としては、オーバーツーリズムなどの問題を目の当たりにすると本当に心が痛く、これからの旅行のあり方も考えなければいけないと思っています。欧米の旅行関係者の方とお話すると、会話の中で必ずサステナブルへのビジョンや、取り組みについての話題になります。ただ、同時に「サステナブルな旅をするということは何かを我慢しないといけないわけではなく、むしろ観光の魅力が広がること。より理解を深め旅することでその国の良いところが分かる」とおっしゃいます。相互に理解を深めるためにも、私たち企画担当者が考えていかなければいけない課題のひとつだと思っています。

SAFによる環境に配慮した海外旅行

https://www.his-j.com/theme/sustainable-tourism/saf/

(注1)2025年11月現在、プログラムの追加が決まり、対象出発日は2026年3月末まで延長し座席数は合わせて約800席でご用意しています。