
指定管理者事業:地域活性化への貢献とHISの挑戦
2019年に設立された「パブリックビジネス推進室」。全国各地の地方自治体が保有する施設を、自治体に代わって管理・運営し、地域の自治体や事業者、地元の方々と協力してその地域を一緒に盛り上げる地域活性化に貢献する「指定管理者事業」を推進している部署です。HISが取り組む「指定管理者事業」について、パブリックビジネス推進室の玉置さんに話を聞きました。
あらためて「パブリックビジネス推進室」が行っている「指定管理者事業」についての概要と、参入するに至った背景を教えてください
指定管理者事業は、地方自治体が所有する建物や施設などを、民間のノウハウを活用して自治体に代わって運営する事業です。指定管理者は、自治体からのミッションを踏まえ、施設を最大限良くしていくことが求められます。2015年、私はHISの創業者である澤田最高顧問が設立した起業家の育成機関「澤田経営道場」に1期生として入門しました。経営者になるための実務的な知識と見識を学び、ハウステンボスで1年ほど実務経験を積み、卒業後、HISの経営企画室に在籍していました。そこで、福井県より「越前陶芸村」の運営に関して課題を抱えているというお話を伺う機会がありました。最初はアドバイザーとして意見をお伝えしていたのですが、その後、当施設が実際に指定管理者の募集を始めることになりました。澤田経営道場で学んだ経営ノウハウや、ハウステンボスでのテーマパーク事業で培った企画力・運営力を活かしたいと考え、社内で検討を重ねたうえで、HISが入札することを決定し、最終的に受注に至りました。HISにとって新事業となる指定管理者事業は、地方自治体が抱える様々な施設の運営課題に対して、HISの専門性を提供していく新たなビジネスの柱になり得ると考えました。そのため、「越前陶芸村」の事業を成功させるとともに、指定管理者事業を請け負う専門部署として、恒久的にこの分野に取り組む体制を構築するため、「パブリックビジネス推進室」を立ち上げました。

これまでの「指定管理者事業」の実績について教えてください
「越前陶芸村」は、2019年4月から2024年3月の5年間、指定管理者として運営・管理を行いました。着任前(2018年)と比較し、1年目は151%、2年目は202%、3年目は283%、4年目は305%、5年目には317%の年間収入を達成しました。来場者についても同様に増加し、最多で年間10万人を記録しました。
最も集客効果が高かったイベントは、毎年春に開催している「しだれ桜まつり」です。越前陶芸村に植えられているおよそ600本のしだれ桜やソメイヨシノが満開になる時期に開催され、全国の陶芸家やクラフト作家の方々が集結し、地元の飲食店やキッチンカーが多数出店し、美しい桜や様々なイベントを堪能できるお祭りです。このイベントに合わせて、独自の企画としてナイトイベント「スカイランタン」を開催したことで、さらなる集客効果を得ることができました。「スカイランタン」はカウントダウンをしたあと、LEDを光源にした約200個のランタンが温かな光を放ちながら舞い上がる幻想的な風景を、夜桜とともに楽しんでいただけるイベントで、初年度2019年と、コロナ禍の2022年の2回開催し、大きな反響がありました。HISの強みを活かして、関西や中部発でバスツアーも催行し、県外からの集客にも貢献できたと思います。

2022年4月「越前陶芸村しだれ桜まつり」のナイトイベント「スカイランタン」の様子
現在は、2024年8月より秋田県由利本荘市の温泉宿泊施設「ぽぽろっこ」と、2025年4月より岐阜美濃加茂市の都市公園「ぎふ清流里山公園」の2施設の運営・管理を担っています。 「ぽぽろっこ」においては、地域住民の生活の一部としての温泉施設の維持を重視しており、イベントも地元の方々をターゲットにした内容で実施しています。特に、昨年10月に開催した「Harvest Festival」でのイベントで、地元の特産品であるとろろを使った「とろろめし大食い大会」が好評で、通常週末の来場者が約1,000人の施設に、約5,000人にご来場いただくことができました。

2023年10月「とろろめし大食い大会」関係者の皆さんと
「ぎふ清流里山公園」の指定管理者事業では、野菜の収穫体験や田植えなどのイベントを実施しております。他にも動物ふれあい体験や養蜂など、非日常を体験できるところがポイントです。今後は広大な土地を活かした地域連携イベントを実施したいと考えています。福井や秋田と同様に、地元の方々との連携を重視し、地域活性化を目指します。
指定管理者事業を進める上で、重視したことは何でしょうか
「越前陶芸村」においては、「陶芸だけにこだわらないこと」を重視しました。陶芸に特化してしまうと、お客様がシニア層に偏る傾向があり、成長の機会が少なくなってしまいます。そのため、まずは子供たちが喜ぶイベントを実施し、ご家族連れのお客様に多数お越しいただきました。その後、若いカップルの方々を対象とし、イルミネーションや風鈴イベントを実施しました。こういったお客様に、越前焼に興味を持ってもらう仕掛けが重要だと考えました。また、地元の方々に対し、まずは困り事や要望をヒアリングし、地域が喜ぶような活動を行うことから始めました。最初は地域に馴染んでいない存在として警戒されていると感じることもありました。イベント企画を提案した際、反対意見が出ることも多かったのですが、それでも挫けずに、「まずは試験的にやってみましょう」と説得し、実施することができました。あとは全力で成功させるだけです。成功を経て、理解と協力を得られるようになりました。陶芸家の方々に対しても、一軒一軒訪問し、越前陶芸村を盛り上げたいという熱意を伝えることから始めました。単なるビジネスパートナーとしてではなく、越前陶芸村の未来を共に創っていく仲間として接することで共感を得られ、「かわいい動物のグリーンポットづくり」などといった連携イベントの実施に繋げていきました。これらの取り組みは、陶芸家の方々の活動を支援しつつ、来場者にとっても魅力的なコンテンツとなり、相乗効果を生み出せたと思っています。
また、施設をより良くしていくためには、共に働くスタッフの協力も欠かせません。スタッフが相談しやすい環境をつくり、相談があったらすぐに改善に向けて行動したこと、また業績に応じた評価制度の導入などが、スタッフのモチベーション向上に繋がったと思います。この仕組みは、秋田や岐阜でも取り入れていきたいと考えています。
思い出に残っている「心躍る」エピソードなどありましたら教えてください
陶芸家にとって大きな収入源のひとつである、「越前陶芸まつり」がコロナ禍で中止となり、困っていた陶芸家の方々を支援するために企画した「窯元応援プロジェクト」です。陶芸家さんが集まる越前焼組合の総会に出席し、熱意を持ってプロジェクトの説明と協力要請をしました。最初は半信半疑で、「はたして焼き物が売れるのか?」と消極的な反応を示す陶芸家さんもいらっしゃいましたが、実際に作品が売れていくにつれて、前向きになってくださり、最終的には「やって良かった」と喜んでいただくことができました。変化に慎重な方に対しても、成功体験が意識を変えていただくことができると学びました。地元メディアにもご協力いただき、コロナ禍で困っている陶芸家さんを、焼き物を買って応援しようと発信したことで、プロジェクトが多くのお客様に認知いただき、地域が一体となり成功することができたと実感しました。また、越前焼に興味を持っていただけるお客様が増えたことで、結果として、陶芸家の方々に喜んでいただき、感謝の言葉を得られた「心躍る」エピソードです。
今後、HISにおいて指定管理者事業をどのように発展させていきたいですか
日本全国には、運営に困っている公共施設が多く存在しています。HISがこれら施設の運営に主体的に関わることで、地域活性化に貢献したいと考えています。地域課題の解決に真剣に取り組む自治体との積極的な協働を通じて、その地域を魅力的な観光地へ磨き上げ、観光客を増やし、最終的にはHIS旅行事業の拡大へ繋げることをビジョンとしています。
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玉置 大剛
法人営業本部 パブリックビジネス推進室
室長1997年 株式会社マップ・インターナショナル入社(2009年 HISに吸収合併)。営業所でのコンサルタント、関西営業本部エリアマネージャーとして実績を積み、2015年澤田経営道場に1期生として入門。卒業後、HIS経営企画室長を経て現職。パブリックビジネス推進室長として指定管理者事業を推進。
※記事の内容はインタビュー当時のものです。