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刺繍文化の継承と販路を確保しサポートすることで、女性の経済的自立とマヤの伝統を後世に繋ぐ「マヤ刺繍プロジェクト」

刺繍文化の継承と販路を確保しサポートすることで、女性の経済的自立とマヤの伝統を後世に繋ぐ「マヤ刺繍プロジェクト」

2025/07/28

社員インタビュー
人権の尊重 地域社会との共生 ジェンダー

コロナ禍により観光収入が途絶え、厳しい生活を与儀なくされていたマヤ民族の方々。2020年6月、彼らが大切に受け継いできた伝統のマヤ刺繍を守り、女性たちの経済的自立を支援することを目的に「マヤ刺繍プロジェクト」が立ち上げられました。一過性の支援ではなく、持続可能な仕組みとして根づかせていくために、地域社会との共生を大切に進めてきたこの取り組みについて、HISメキシコ法人の相原さんに話を聞きました。

マヤ民族のおかれている環境と「マヤ刺繍プロジェクト」をはじめるに至った経緯を教えてください

マヤ古代遺跡が残るメキシコのユカタン半島には、親族を主としたマヤ民族の方の村が数多く点在しています。舗装された道が通っているものの、集落は町から離れたジャングルの中にあり、移動には車が必須です。収入を得るため、男性は町に出稼ぎに出ることが多く、女性は育児や家事を担い、手が空いた時間には刺繍などの内職で生計を立てていることが一般的です。また、野菜や家畜を育てるなどして、自給自足のような生活を営む人々も見られます。女性は若くして結婚する習わしがあるため学びの機会は少なく、普段の生活で必要なマヤ語を話せても読み書きができない方も多く、村の外に出ることはほとんどありません。

そのような中、新型コロナウイルスによるパンデミックが起きました。観光地への出稼ぎや土産品を販売していた男性は失業し、観光客向けの刺繍も売れなくなり彼らの生活は困窮していました。当時、私たちメキシコ法人も、日本からのお客様がいらっしゃらなくなり、旅行以外で何かできることを模索していました。NPO法人で働く私の知人が、マヤ村の女性支援を行っていることを思い出し、コロナ禍で厳しい生活を余儀なくされている今、マヤの人々が守った遺跡や自然に恩恵を受けてきた旅行会社として、この地に暮らす方々に恩返しができないかと支援を決めました。「マヤ刺繍プロジェクト」は、この現地NPO法人「Asociacion Pro-Dignificacion de la Mujer Maya. A.C.(マヤ女性の尊厳を守る会)」との協働プロジェクトです。村の女性が一つひとつ内職で作る刺繍は、カラフルな色使いと自然と共存して生きるマヤ民族独自の感性が特徴で、土産屋や露店などで販売されておりますが、近年では工場で大量生産された刺繍が出てきたことから、価格競争に勝てない厳しい状況にありました。このプロジェクトでは、マヤ民族の伝統文化である刺繍をECサイトなどを通じて販路をつくり、経済的自立を可能にすることで刺繍技術を後世につないでいくことを目的にしています。

色鮮やかな配色が美しいマヤ刺繍

色鮮やかな配色が美しいマヤ刺繍

私たちが支援しているのは、カンクンから約2時間半くらい、コバ遺跡の近くにある村です。2020年6月、私たちは初めて村を訪れ、現地にお住まいの皆さんから直接お話を伺いました。生活の状況や抱えている課題、そして未来への希望について耳を傾ける中で、支援の必要性と方向性がより明確になりました。女性たちの多くは、幼い頃から母親に刺繍を教わって育ってきましたが、実際に刺繍を収入源として活かせている人はごくわずかで、多くの女性たちは、日々の家事や育児に追われ、刺繍を仕事として続けることが難しいのが現状でした。そこで、まずは女性たちを集め、素材を提供して刺繍教室を開くことから始めました。アメリカと日本で支援の呼びかけを行い、その資金をもとに、布や糸、はさみなどの必要な資材を購入。複数回にわたってレッスンを行い、最終的には製品として提供できるレベルの技術を身につけていただきました。また、製品が継続的に売れる仕組みを構築するために、「MAYA MEXICO」というECサイトを立ち上げ、オンラインで購入できる環境を整えました。注文があった分だけ製作するC2M(Consumer to Manufacture)モデルを取り入れ、過剰生産を避けながら持続可能な仕組みづくりを目指しました。さらに、HISのメキシコツアーに参加いただいたお客様には、マヤの女性たちが手がけた刺繍入りの雑貨を特典としてお渡しし、ツアー売上の一部を「マヤ刺繍プロジェクト」に還元する仕組みを構築しました。これにより、一定の需要が見込まれるようになり、生産とのバランスがとれるようになったことで、継続的かつ持続可能な支援が実現しています。観光と地域支援を結びつけたこの取り組みは、マヤの女性たちの生活向上に貢献しながら、伝統文化の継承にもつながっています。

インタビューの様子

プロジェクトにより得られたもの、変化などは感じられましたか

この村は観光地化されていないため、日本人が村に入ってきたこと自体珍しく、最初は「一体誰?」という感じでしたが、これまで数年続けてきたことで認知されはじめ、「日本」という国と関係性を感じていただけたことを喜んでいただけたように感じています。また、この取り組みを知った日本企業や刺繍組合と交流させていただいたり、刺繍の材料やミシン、教材の本をご提供いただいたり、伝統技術の向上にも繋がったと思います。彼女たちが置かれている立場というのは、長く続いてきた文化や生活のなかで出来たものですので、私たちが簡単に変えられるものではないのですが、女性や、特に子どもたちが、村の中だけの限られた社会で過ごすのではなく、将来、一歩踏み出せる環境を私たちが提供していけるよう努力していきたいと考えています。

サポートメンバーの皆さんと一緒に

サポートメンバーの皆さんと一緒に

思い出に残っている「心躍る」エピソードなどありましたら教えてください

コロナ禍の頃、メキシコ法人では日本の方に向けて、マヤ村を知っていただくためオンラインライブ配信で「マヤ村散策ライブツアー」を実施したのですが、村の子どもたちが中心になって手伝ってくれました。村を案内してくれたり、どんなものを食べているかなど生活について教えてくれたり、本当に嬉しかったです。相互で助け合う関係性が築けたことで、より絆が深まったように感じました。

プロジェクトで心がけていることはどのようなことでしょうか

私たちが暮らすカンクンから村までは距離があるため、頻繁に訪れることは難しいのですが、現地に足を運べない期間が続いても新しいデザイン案を定期的に送ったり、彼女たちのモチベーションや気持ちが途切れないように、常に連絡を取り合うようにしています。直接言葉にすることは少なくても、"私たちは村の皆さんと共ににいる"という思いを、お互いが感じられるような関係性を築いていけたらと願っています。

インタビューの様子

これからの抱負や目標があれば教えてください

この村だけにとどまらず、置かれている環境が同じ他の村の人たちにも支援の幅を広げていけたらと考えています。最終的には、私たちが入らなくても、その村だけで今やっている事業を継続させることができるようになることがゴールだと思っています。

先日ミシンを3台、村にお渡しすることができました。今後は刺繍だけでなく、彼女たちの教育にも繋がるような縫製技術の習得を目指しており、どのような指導が効果的か検討を進めています。また、村の中学校にパソコンを7台寄付しました。子どもたちが学び、調べることで知識を広げ、将来の選択肢を増やす助けになればと願っています。生まれ育った環境によって幸せの形はそれぞれ異なると思いますが、特に子どもたちには大きな夢を持ち、諦めずに実現できる未来を築いてほしいと願っています。そのために、私たちもできることを少しずつ続けていきたいと考えています。

  • プロフィール画像
  • 相原 朋子
    H.I.S. GIRAS INTERNACIONALES MEXICO S.A. de C.V.
    (HISメキシコ法人)

    2017年入社。コロナ禍時、新規事業部の立ち上げメンバーとして、マヤ女性の支援活動やフォトスタジオを開設・運営。現在はインバウンド事業部と新規事業部を両立しながら、メキシコの魅力を国内外へ発信し続けている。

    ※記事の内容はインタビュー当時のものです。